シャーロック・ホームズの紹介(12)
ホームズの外見と顔の特徴
シャーロック・ホームズの外見と顔については、多くの作品のなかで触れられています。代表的な描写を原文で見てみましょう。まず、痩せて、背の高い人物であることが描かれています。
His very person and appearance were such as to strike the attention of the most casual observer. In height he was rather over six feet, and so excessively lean that he seemed to be considerably taller. His eyes were sharp and piercing, save during those intervals of torpor to which I have alluded; and his thin, hawk-like nose gave his whole expression an air of alertness and decision. His chin, too, had the prominence and squareness which mark the man of determination.
(A Study in Scarlet p.18)
元来彼の外見なり容貌なりそれ自体が、どんな不注意な人の眼をでも引かないでおかないのだ。身長もたっぷり六フィート以上あるが、ひどく肉がないのでじっさいよりはよほど高く見える。眼といえば、前にいった冬眠的な期間は別だけれど、射るような鋭い光をもっているし、肉の薄い、鷲のような鼻は、ぜんたいの風貌に俊敏果敢な印象を与えている。そして、彼のあご、これがまたぐっと出て角張り、決断と人であることを示している。
My experience of camp life in Afghanistan had at least had the effect of making me a prompt and ready travelers. My wants were very few and simple, so that in less than the time stated I was in a cab with my valise, rattling away Paddington Station. Sherlock Holmes was pacing up and down the platform, his tall, gaunt figure made even gaunter and taller by his long grey travelling-cloak and close-fitting cloth cap.
(The Boscombe Valley Mystery )
アフガニスタンの戦場で送った陣中生活の経験は、すくなくとも私を気軽に、いざといえばすぐにも旅に出られる男にする効果があった。私の必要とする品は簡単で少ないのだから、その三十分のうちにちゃんと支度を整えて、手提げ鞄一つをもってタクシー馬車で、パディントン駅へとガタガタと揺られていた。行ってみると、ホームズはもうホームをブラブラしていたが、ながいネズミ色の旅行用外套を着て、ピタリとあったハンチングをかぶったところは、そのやせた身長をいっそう細長く目立たせていた。
また、眉は太くて黒いとあり、唇は薄く、顔つきは射るように鋭いとワトソンは言っています。つぎの二つの作品から抜き出してみました。
My friend was standing with an expression strained intensity upon his face, staring at the railway metals where they curved out of the tunnel. Aldgate is a junction, and there was a network of points. On these his eager, questioning eyes were fixed, and I saw on his knee, alert face that tightening of the lips, that quiver of the nostrils, and concentration of the heavy tufted brows which I knew so well.
(The Bruce-Partington Plans )
ホームズは一心になって、トンネルからカーヴしながら出ている線路のうえをじっと見つめているのである。オルドゲートは分岐駅なので、そのあたりはポイントだらけなのである。そのポイントのうえを、ホームズのいぶかしげな眼がじっと見下ろしている。ぎゅっと口をむすび、鼻の孔をふくらませ、太い眉を寄せた例によって鋭い顔つきである。
Sherlock Holmes was too irritable for conversation and too restless for sleep. I left him smoking hard, with his heavy, dark brows knotted together, and his long, nervous fingers tapping upon the arms of his chair, as he turned over in his mind every possible solution of the mystery.
(The Disappearance of Lady Frances Carfax )
シャーロック・ホームズは怒りっぽくて話もしていられないし、そわそわして寝にゆく様子もないので、私はさきに寝室へひきあげた。彼はタバコばかりふかしながら、太い眉をしかめて、細い神経質な指先でいすの腕をコツコツたたき、問題のあらゆる可能性に思いをひそめているのであった。
ホームズのモデルは、作者ドイルの恩師であるエジンバラ大学医学部のベル教授であると言われています。外見から職業を当てるホームズの推理分析は、作者ドイルが教授の講義のなかで教えられたものでした。ドイルの自叙伝「我が回想と冒険」の中で描かれた教授は、「心身ともにきわめてすぐれた人物であって、やせてしなやかで、鼻が高く、端正な顔立ちで、人を射るような灰色の目と、角ばった肩、そしてやや落ち着きのない歩き方をしていた。声は甲高く、耳障りなほどだった」と描かれています。なるほど、似ている部分もあるような気がしますが、ホームズの姿・格好は教授のそれとはやはり違います。さらに、原文からイメージするホームズの外見と顔の様子は、パジェットの挿絵やテレビ放映されたホームズ像ともだいぶん違うなあと、筆者は思っています。原文から想像されるホームズ像は、読者によってそれぞれ違うということでしょうか。だから面白いのですね。
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