原文のペーパーバックを読んでみましょう。


ホームズのダンディズム-服装とお洒落感覚

 山田勝著『孤高のダンディズム・シャロック・ホームズの世紀末』(1993)によれば、ホームズのお洒落感覚はなかなかなものだと言っておられます。ホームズの服装や振る舞いは洗練され、 おしゃれや伊達(だて)に徹する態度をもっていた男であると同氏は指摘されています。いわゆるダンディまたはダンディズムは、19世紀初頭イギリスの青年たちの間に流行したもので、その影響はフランスにも及び、男性の生活様式・教養などへのこだわりや気取りが基本的なコンセプトになっています。その上でホームズの生きた世紀末は、ダンディといえば、「知的ボヘミアンの貴族性」を所持した人を指し、ホームズはその典型的な人物だということです。ここでは、ホームズのダンディズムについて服装を通じてみて見たいと思います。

I had called upon my friend Sherlock Holmes upon the second morning after Christmas, with the intention of wishing him the compliments of the season. He was lounging upon the sofa in a purple dressing gown, a pipe-rack within his reach upon the right, and a pile of crumpled morning papers, evidently newly studied, near at hand.      

(The Blue Carbuncle p.144)

クリスマスがすんだ二日目の朝、お祝いを言いに行くつもりで、私はシャーロック・ホームズを訪ねた。ホームズは紫のガウンを着て、ソファにとぐろを巻き、パイプ架けを右側の手近な場所にすえ、いままで研究していたらしい新聞を、クシャクシャと山のようにそばへ積んでいた。

‘Where lies the difficulty?’

‘In my imagination, perhaps. Well, leave it there, Watson. Let us escape from this weary workaday world by the side door of music. Carina sings at the Albert Hall, and we still have time to dress, dine and enjoy.’

(The Adventure of the Retired Colourman p.244)

「どこに問題があるというのだい?」

「僕の頭の中だろうね。だがまあ、この話はここでいったん打ち切りにしょう。そしてこの退屈平凡な現在から、音楽という脇道へでも逃避しようよ。今晩はアルバート・ホールでカリーナが唄うはずだ。まだ着替えや食事の余裕はあるから、ゆっくり楽しむとしようよ」

He was thin and worn, but clear and alert, his keen face bronzed by the sun and roughened by the wind. In his tweed suit and cloth cap he looked like any other tourist upon the moor, and he had contrived, with that cat-like love of personal cleanliness which was one of his characteristics, that his chin should be as smooth and his linen as perfect as if he were in Baker Street.

(The Hound of the Baskervilles p.128)

やせこけて汚れているが、どこまでもきびきびと元気で、きりっとしたその顔は日に焼け風にさらされた跡がみえた。それにツイードの服にハンチングというその姿は、どう見てもこの沼沢地方の旅人といった扮装である。でも猫のように潔癖でおしゃれな彼は、それが彼の特質の一つなのだが、べーカー街にいるときと同じに、ここでもあごをきれいに剃りあげて、シャツもカラーもさっぱりしたのをつけていた。

An anomaly which often struck me in the character of my friend Sherlock Holmes was that, although in his method of thought he was the nearest and most methodical of mankind, and although also he affected a certain quiet primness of dress, he was none the less in his personal habits one of the most untidy men that ever drove a fellow-lodger to distraction.

(The Musgrave Ritual p.96)

シャーロック・ホームズの性格のうちで、異常な点としていつも私の気になっていたことは、思索の方法こそ世にも整然と、そして簡潔で手際よく、また身のまわりの服装、身だしなみこそいつも几帳面に端然としているが、日常の起居出入その他やることが同宿人でもあればほとほと持て余すほどにだらしないことである。

ホームズと言えば、鹿打帽かというくらい彼のシンボルになっていますが、服装はおおよそしぶいのが好みで、落ち着いた服装を着て、山の中にいても真っ白なカラーを毎日取り替えるほどの身だしなみがよいようです。また、原文にあるように猫のような潔癖でおしゃれな彼は、身体をどんなときでも清潔にするよう心がけ、TPOに合わせて服装の選択に気を使っていることがわかります。日常の起居出入りについては大変だらしないとワトソンは嘆いていますが、服装に関しては、ホームズは決めるべきときはきちんと決めているということでしょうか。

               

ホームズの外見と顔の特徴

 シャーロック・ホームズの外見と顔については、多くの作品のなかで触れられています。代表的な描写を原文で見てみましょう。まず、痩せて、背の高い人物であることが描かれています。


His very person and appearance were such as to strike the attention of the most casual observer. In height he was rather over six feet, and so excessively lean that he seemed to be considerably taller. His eyes were sharp and piercing, save during those intervals of torpor to which I have alluded; and his thin, hawk-like nose gave his whole expression an air of alertness and decision. His chin, too, had the prominence and squareness which mark the man of determination.          

(A Study in Scarlet p.18)

 元来彼の外見なり容貌なりそれ自体が、どんな不注意な人の眼をでも引かないでおかないのだ。身長もたっぷり六フィート以上あるが、ひどく肉がないのでじっさいよりはよほど高く見える。眼といえば、前にいった冬眠的な期間は別だけれど、射るような鋭い光をもっているし、肉の薄い、鷲のような鼻は、ぜんたいの風貌に俊敏果敢な印象を与えている。そして、彼のあご、これがまたぐっと出て角張り、決断と人であることを示している。

My experience of camp life in Afghanistan had at least had the effect of making me a prompt and ready travelers. My wants were very few and simple, so that in less than the time stated I was in a cab with my valise, rattling away Paddington Station. Sherlock Holmes was pacing up and down the platform, his tall, gaunt figure made even gaunter and taller by his long grey travelling-cloak and close-fitting cloth cap.

(The Boscombe Valley Mystery )

アフガニスタンの戦場で送った陣中生活の経験は、すくなくとも私を気軽に、いざといえばすぐにも旅に出られる男にする効果があった。私の必要とする品は簡単で少ないのだから、その三十分のうちにちゃんと支度を整えて、手提げ鞄一つをもってタクシー馬車で、パディントン駅へとガタガタと揺られていた。行ってみると、ホームズはもうホームをブラブラしていたが、ながいネズミ色の旅行用外套を着て、ピタリとあったハンチングをかぶったところは、そのやせた身長をいっそう細長く目立たせていた。

 

 また、眉は太くて黒いとあり、唇は薄く、顔つきは射るように鋭いとワトソンは言っています。つぎの二つの作品から抜き出してみました。




My friend was standing with an expression strained intensity upon his face, staring at the railway metals where they curved out of the tunnel. Aldgate is a junction, and there was a network of points. On these his eager, questioning eyes were fixed, and I saw on his knee, alert face that tightening of the lips, that quiver of the nostrils, and concentration of the heavy tufted brows which I knew so well.  

(The Bruce-Partington Plans

ホームズは一心になって、トンネルからカーヴしながら出ている線路のうえをじっと見つめているのである。オルドゲートは分岐駅なので、そのあたりはポイントだらけなのである。そのポイントのうえを、ホームズのいぶかしげな眼がじっと見下ろしている。ぎゅっと口をむすび、鼻の孔をふくらませ、太い眉を寄せた例によって鋭い顔つきである。



Sherlock Holmes was too irritable for conversation and too restless for sleep. I left him smoking hard, with his heavy, dark brows knotted together, and his long, nervous fingers tapping upon the arms of his chair, as he turned over in his mind every possible solution of the mystery.     

(The Disappearance of Lady Frances Carfax )

シャーロック・ホームズは怒りっぽくて話もしていられないし、そわそわして寝にゆく様子もないので、私はさきに寝室へひきあげた。彼はタバコばかりふかしながら、太い眉をしかめて、細い神経質な指先でいすの腕をコツコツたたき、問題のあらゆる可能性に思いをひそめているのであった。

ホームズのモデルは、作者ドイルの恩師であるエジンバラ大学医学部のベル教授であると言われています。外見から職業を当てるホームズの推理分析は、作者ドイルが教授の講義のなかで教えられたものでした。ドイルの自叙伝「我が回想と冒険」の中で描かれた教授は、「心身ともにきわめてすぐれた人物であって、やせてしなやかで、鼻が高く、端正な顔立ちで、人を射るような灰色の目と、角ばった肩、そしてやや落ち着きのない歩き方をしていた。声は甲高く、耳障りなほどだった」と描かれています。なるほど、似ている部分もあるような気がしますが、ホームズの姿・格好は教授のそれとはやはり違います。さらに、原文からイメージするホームズの外見と顔の様子は、パジェットの挿絵やテレビ放映されたホームズ像ともだいぶん違うなあと、筆者は思っています。原文から想像されるホームズ像は、読者によってそれぞれ違うということでしょうか。だから面白いのですね。

ホームズの知識と能力


 相棒のワトソンによれば、ホームズの知識には偏りがあると言います。

また運動と楽器の演奏能力はあるそうです。


ワトソン作成の「ホームズの知識および能力の一覧」をここでご紹介しましょう。


原文はこうなっています。

Sherlock Holmes - his limits

1 Knowledge of Literature : Nil    

2 Knowledge of Philosophy : Nil

3 Knowledge of Astronomy : Nil   

4 Knowledge of Politics : Feeble

5 Knowledge of Botany : Variable. Well up in belladonna, opium, and poisons generally.     

   Knows nothing of practical gardening.

6 Knowledge of Geology : Practical, but limited. Tells at a glance different soils from each 

   other. After walks has shown me splashes upon his trousers, and told me by their colours 

   and consistence in what part of London he had received them.

7 Knowledge of Chemistry : Profound

8 Knowledge of Anatomy : Accurate, but unsystematic.

9 Knowledge of Sensational Literature : Immense. He appears to know every detail of every 

   horror perpetrated in the century.

10 Plays the violin well.

11 Is an expert single stick player, boxer, and swordsman.

12 Has a good practical knowledge of British law.

 (A Study in Scarlet )



 要約すると、つぎのようになると思います。

●文学・哲学・天文学 -ゼロ

●通俗文学の知識-該博、今世紀に起きたすべての凶悪犯罪事件に通暁の模様。

●政治上の知識-ごくわずか

●イギリス法の関する実践的知識-豊富

●植物学の知識-ベラドンナ、アヘンその他毒物一般には詳しいが、園芸については全く無知

●地質学の知識-実用的だが、限られている。一見してただちに各種の土壌を識別。

●化学の知識-深遠

●解剖学の知識-正確だが、体系的ではない。

●ヴァイオリンの演奏に長ず。

●棒術・ボクシング・剣術の達人


ワトソンはこの表を見て、絶望のあまり紙片を暖炉になかへ投げ捨てました。

ホームズの知識は、どうやら犯罪事件の推理に役立つものばかりみたいですね。



ところで、ホームズは、知識の整理に関してこんな名言を吐いています。

 ‘I consider that man’s brain originally is like a little attic, and you have to stock it with such furniture as you choose. A fool takes in all the lumber of every sort that he comes across, so that the knowledge which might be useful to him gets crowded out, or at best is jumbled up with a lot of things, so that he has a difficulty in laying his hands upon it. Now the skilful workman is very careful indeed as to what he takes into his braining. … ’

( A Study in Scarlet )

「僕は思うに、人間の頭脳というものは、もともと小さな空っぽの屋根部屋のようなもので、そこに自分の勝手に選んだ家具を入れておくべきなんだよ。

ところが愚かな者は、手あたりしだいにこれへいろいろながらくたまでとりこむのだから、役にたつ肝心な知識はみんなはみだしてしまうか、はみだされないまでもほかのものとごちゃ混ぜになって、いざというときにはちょっととりだしにくくなってしまう。

そこへゆくと手慣れた職人は、自分の頭脳部屋へとりこむ品物について、非常に注意を払う。・・・」



ホームズは必要な知識とそうでないものとをきちんと分別し、順序よく、整理整頓すべきであるといっています。情報が氾濫する今日、この言葉は心すべきものですね。


ホームズの生涯と事件

 シャーロック・ホームズ(Sherlock Holmes)は世界で最初の諮問探偵(Consulting Detective)です。

彼は田舎の大地主の子孫であり、フランスの画家ヴェルネの孫にあたるそうです。

しかし、何時生まれたかは分からず、また父と母は不明です。

また彼が亡くなったという話も聞きません。今も元気に生きているそうです。



‘My ancestors were completely squires, who appear to have led much the same life as is natural to their class. But, none the less, my turn that way is in my veins, and may have come with my grandmother, who was the sister of Vernet, the French artist. Art in the blood is liable to take the strangest forms.’

(The Greek Interpreter)

「僕の先祖というのは代々いなかの大地主だったのだが、みなその階級にふさわしい大同小異の生活していたらしい。だがこの性向はやはり血統からきている。たぶん祖母から受け継いだものらしい。この祖母はヴェルネというフランス人の画家の妹にあたるんだが、えてして芸術家の血統はいろんな変わった人物を作り出すものだ。」

 大学の二年のとき、友人の父親の助言によりただの趣味であった推理力を職業に生かそうと決心します。


“…I don’t know how you manage this, Mr Holmes, but it seems to me that all the detectives of fact and of fancy would be children in your hands. That’s your line of life, sir, and you may take the word of a man who has seen something of the world.”

(The‘Gloria Scott)

『ホームズ君はいったいどうしてこれまでになったのか知らないが、実存の人物でも架空の人物でも、今までの探偵なんかあんたの前へ出たら、子供のようなもんじゃ。あなたはこれからこれで身をたてなさるんじゃな。これは世の中というものをいくらか知っている者のいうことだから、信用しても間違いはない』


 こうして、ホームズは諮問探偵として、「グロリア・スコット号事件」(1874年)から「覆面の下宿人」(1896年)までの23年間にわたって活躍しました。

この中には、長編の「緋色の研究」(1881年)、「四つの署名」(1888年)、「恐怖谷」(1888年)、「バスカヴィル家の犬」(1889年)が含まれています。なお途中の「最後の事件」(1891年)から「空き家の冒険」(1894年)の3年間は大空白時代でしたが、この間もホームズはモリアーティ教授の犯罪組織の摘発と解体に専念していたということです。探偵業の再開後、相棒のワトソンが、ホームズの輝かしい経歴を危うくしかけた、例の長年愛飲していたあの薬物を何年もかけて徐々にやめさせたのはこの時期です。


For years I had gradually weaned him from that drug mania which had threatened once to check his remarkable career. Now I knew that under ordinary conditions he no longer craved for this artificial stimulus; … .   

 (The missing Three-Quarter)

その輝かしい経歴を一度はおびやかしかけた麻薬嗜好の悪癖を、私は何年もかかって徐々に捨てさせた。いまでは普通の状態では、もはや彼もこの人為の刺激を求めようとはしなかったが、・・・。


 1895年、ヴィクトリア女王に拝謁したが、ナイトの爵位は辞退しています。1903年(または1904年)に人里は離れた、サセックス・ダウンズの農場に引退しました。



The friends of Mr Sherlock Holmes will be glad to learn that he is still alive and well, though somewhat crippled by occasional attacks of rheumatism. He has, for many years, lived in a small farm upon the Downs five miles from Eastbourne, where his time is divided between philosophy and agriculture. 

(His Last Bow, Preface)

 ワトソンによれば、友人シャーロック・ホームズは時々リウマチに悩まされるけれど、今も元気に生きているそうです。イーストボロウから五マイル離れたダウンズの小さな農園にもう何年も暮らし、ここで彼は晴耕雨読の生活を送っているということです。

しかし、引退生活とはいえ、すっかり事件から足を流したというわけではなく、引退後もいくつかの事件の解決に携わりました。最後の最後は、ドイツに偽りの情報を大量に送り込み、傑出したドイツのスパイのフォン・ボルクを逮捕した「最後の挨拶」(1914年)という事件がありました。


 筆者は昨年の暮れに大病をして半年ほど「英語で読むシャーロックホームズ(読書会)」とこのブログを休ませてもらいました。元気になりましたので、このブログを再開します。



I moved my head to look at the cabinet behind me. When I turned again Sherlock Holmes was standing smiling at me across my study table. I rose to my feet, stared at him for some seconds in utter amazement, and then it appears that I must have fainted for the first and the last time in my life. Certainly a grey mist swirled before my eyes, and when it cleared I found my collar-ends undone and the tingling after-taste of brandy upon my lips. Holmes was bending over my chair, his flask in his hand.

"My dear Watson," said the well-remembered voice, "I owe you a thousand apologies. I had no idea that you would be so affected."

I gripped him by the arm.

"Holmes!" I cried. "Is it really you? Can it indeed be that you are alive? 

(The Empty House)

【日本語訳】

私は後ろの本棚を見るために振り返った。もう一度正面を向いた時、笑顔のシャーロックホームズが書斎のテーブルの向こうから私を見ていた。私は立ち上がり、数秒間呆然として彼を見つめた。そしてその後どうやら、生涯で後にも先にもそれ一度きりの失神をしてしまったに違いない。目の前にはっきりと灰色の霧が渦を巻き出したのを覚えているが、それが晴れた時、私は襟元を緩められており、唇に舌を刺すブランデーの後味を感じた。ホームズは懐中瓶を手に、私の椅子に屈みこんでいた。

「ワトソン」彼は聞き覚えのある声で言った。「本当に申し訳ない。君がここまで驚くとは考えてもみなかった」

私は彼の腕を掴んだ。

「ホームズ!」私は叫んだ。「本当に君か?君は本当に生きているのか?あの恐ろしい奈落から這い上がってこれたのか?そんなことがありえるのか?」

「ちょっと待ってくれ」彼は言った。「君は話をしても大丈夫なのか?僕は不必要に劇的な登場で君に深刻なショックを与えてしまった」

「私は大丈夫だ。しかし本当に、ホームズ、自分の目が信じられんよ。本当なのか!君が、 ―― よりによって君が ―― 、私の書斎に立っているとは」私がもう一度彼の袖を掴むと、その下に細い筋張った腕が感じられた。「ともかく、君は幽霊ではなさそうだ」私は言った。「君に会えて本当に嬉しい。座ってくれ。・・・」

『空家の冒険』



【コメント】

「最後の事件」で犯罪界のナポレオンと言われるモリアティ教授とともに1891年にライヘンバッハの滝に落ちたホームズは1894年に復活を遂げました。この三年間は「大空白時代」と呼ばれています。死んだはずのホームズがワトソンの目の前に現れた場面で、ワトソンは気絶してしまいます。筆者は半年の空白期間でしたが、ホームズと同様に復活しました。

「英語で読むシャーロックホームズ」を世にこれからもしっかり広めたいと思います。





シャーロック・ホームズの名言について


ホームズはいろいろな作品で名言を吐いています。

ここでは推理に関する名言を英語で紹介します。


次の3つの英文は、表現は違いますが、よく似ているところもあります。

意味は①~③ともほぼ同じ意味です。


①の英文を訳すると、「私の公理の一つなのだが、不可能なものを除いた時、残った物がいかにあり得そうもないものであっても、それが真実である」となります。


①"It is an old maxim of mine that when you have excluded the impossible, whatever

remains, however improbable, must be the truth.


②We must fall back upon the old axiom that when all other contingencies fail,

whatever remains, however improbable, must be the truth.


③When you have eliminated all which is impossible, then whatever remains, however improbable, must be the truth.


これは、ホームズが吐く名言中の名言です。何回も口ずさんで暗唱すれば、あなたも立派なファンになれます。


Baker Street 221B

ホームズの住まいであり仕事場であるベイカー街221Bは辛抱強い女家主のハドソン夫人から借りた部屋です。


建物の2階と3階にある続き部屋で、2階の居間からは通りを見渡すことができ、奥には寝室があります。

依頼人が221Bを訪ねる様子は2階の居間からよく見えて、ホームズは依頼人の歩き方、馬車、ドアのノックの仕方、階段を上がってくる足音などから、依頼人の心配度、不安度、さらには事件の様子までをも推測します。


ベーカー街221Bは架空で実際には存在していません。世界中から221Bへ手紙が届けられますが、その番地は住宅金融組合になっています。

迷惑な話でですが、そこはイギリス人で届けられた手紙の返信をしています。

現在はその場所を移転して作られたホームズ博物館に手紙は送られています。


ホームズ作品には実存する通りも架空の通りも出てきます。

実存の通りのなかに架空の通りを描くことよって、架空の通りがいかにも実存しているかのように読者にリアルリスティクに信じ込ませるような描き方をしています。

作者のコナン・ドイルについて

シャーロック・ホームズの作者であるコナン・ドイルという人は医師でした。当時、開業をしたものの患者は少なく、余った時間を暇つぶしに短編小説を書いていました。

それがホームズを生むことになりました。


ドイルは雄大な本格的な長編歴史小説を書くことを願望していて、ホームズ作品は片手間の生活費稼ぎでした。歴史小説は評価されずに、後世になってシャーロック・ホームズが有名になりました。


第一作の『緋色の研究』の原稿料は現在のお金に換算して60万円ぐらいで、17年後の短編一作は2500万円になりました*。


いかにホームズ作品が人気を高めて行ったのかが理解できます。多くの読者はシャーロック・ホームズの名前をよく知っていますが、生みの親であるコナン・ドイルの名前は余り知られていないように思われます。

* 諸兄邦香『シャーロック・ホームズ 大人の楽しみ方』(アーク出版)20-21頁より引用

スキンダラスな世紀末のイギリス社会を映すホームズ作品

前回はホームズに相談する依頼人についてお話しましたが、依頼人の相談内容の多くは、いかにしてスキャンダルをもみ消すかというものでした。


世紀末のイギリスは愛欲、金銭欲、名誉欲などが渦巻く社会でした。

一度でスキャンダルで依頼人の地位や名誉は崩壊してしまいます。


ホームズの仕事は彼らをスキャンダルから守ることにあったのですが、このことはいかにこの時代、地位や身分の高い人々が人間の「業」に弱いのかを示しているとも言えます。


ホームズを訪ねる依頼人について

短編・長編を合わせて60作品には単純に言って60人の依頼人がホームズに事件解決の相談を請います。

依頼人について言えば、男女、年齢、身分、職業、出身地などばらばらです。


作品の中では依頼人の身体的特徴、顔の表情、服装、言葉遣い、仕草などが丁寧に記述され、依頼人の様子が生き生きと描かれています。

これもホームズ作品を読む一つの楽しみです。依頼人に視点を置いて読むと、また違った作品の味わい方できると思います。

シャーロック・ホームズ探偵物語では友人であるワトソン博士が登場します。

ホームズの事件解決の助けとその記録はこのワトソンがやっています。

彼は医者でありながら、ホームズ事件に興味を持ち、ホームズの依頼があれば、医者の仕事を置いて彼とともに行動します。


ホームズに比較すると、凡庸にも思えますが、実際平均以上の知性の持ち主であり、性格は温厚で、また常識の持ち主です。

ホームズの叡智の前ではくすんだような存在で、劣等感を覚える損な役回りになっています。


ホームズの優れた観察力、推理力、行動力にはいつも驚き、圧倒されるワトソンですが、ワトソンの持つ寛大さ、大人らしい落ち着き、振舞いなどは偏った性格を持つ天才肌のホームズを圧倒しているように見えます。

ホームズの輝かしい業績は実はワトソンなくしては語れないのです。

ホームズの魅力は、何といっても彼の持つ観察力と推理力でしょう。

理論家らしく万物をあるがままに精緻に観察し、一見何でもない情報から隠された真実を探り当てます。これこそホームズの真価でしよう。



多くの難事件を解決に導いた方法です。

初対面の依頼人の服装や体の特徴から相手の素性や事情を正確に推理し、その明察さは相手と読者を驚かせます。

また犯罪捜査の時には変装もよくやり、変装のための隠れ場所がロンドンには数か所ありました。